デンマークといえば、どんなイメージをお持ちでしょうか?
日本にいる時に「デンマーク」で伝わってくる情報といえば、教育費無料!医療費無料!世界一幸せ!というキラキラしたイメージばかりが先行していました。
それも事実ですが、そんな高福祉の裏側には高い納税の義務。
そして、さらにその裏側には「政治への高い信頼」「市民の積極的な政治参加」が不可欠、とデンマークに滞在してみて気が付きました。
それに関連して、フォルケホイスコーレの授業でSocialdemokraterne(デンマーク社会民主党)のDan Jørgensen氏にお話を聞く機会があったので、それも合わせてレポートを書きます。
「幸福度」に影響する政治への信頼
デンマークは「幸せの国」として知られていますが、それは国連の発表している「世界幸福度ランキング」に由来します。
デンマークはこちらのランキングで上位常連国。
国連は「幸福度」を定義する項目のひとつとして、「政治での汚職のなさ」という項目を挙げています。
(他の項目は、国民1人当たりのGDP、社会保障、健康寿命、人生選択の自由度、寛容度)
All the top countries tend to have high values for all six of the key variables that have been found to support well-being: income, healthy life expectancy, social support, freedom, trust and generosity.
このランキングで上位国のデンマークは、政治の項目も高いポイントをマークしているということです。
実際に暮らしてみての私の感覚だけでなく、統計上でも明らかにされていることがわかります。
デンマーク社会の基本は「民主主義」
デンマークの投票率は、80%を下回ったことがないそうです。
デンマークは「政治に全く関心のない人」が最も少ない国です! 子どもの頃から社会のことを議論する習慣が根付いているデンマーク。国政選挙では投票率が80%を下回ったことがないんですよ。https://t.co/zYo1R6rD5g pic.twitter.com/ftKp7SBtLj
— 駐日デンマーク大使館 (@DanishEmbTokyo) 2016年10月12日
このことからもデンマーク人は、「自分たちの意思がしっかり反映される」と感じ、積極的に政治に参加していること言えます。
つまり、民主主義が社会にしっかりと定着しているのです。
デンマーク人に民主主義が根付いているということは、フォルケホイスコーレの日常からも感じます。
例えば、全校での議論の場。意見がとにかく活発に、議論が盛り上がります。
この写真は、100人のフリーディスカッションで「学校のクラブ活動」について話し合った際のもの。黒板に書き切れないほど意見が出ます。
デンマーク人は幼い頃から、意見を言うこと、議論すること、社会やコミュニティについて話し合うことを訓練されているので、何かを決めたり改善するのがとっても上手。
また、デンマークでは市民団体(civil society) が発達しており、3〜4割の人が何かしらの活動に参加しているそうです。
これも市民が「よりよいデンマーク社会」を考えられる大切な受け皿。
こちらの記事を書いた際にも触れたのですが、官民、そして市民が一体になってよりよい社会を追求している印象です。
デンマークの政治体制
デンマークの政治はFolketinget(フォルケティング)と呼ばれる議会により運営されています。議員は179名で、比例代表制で選出。
現在の議会は9政党で構成されています。
デンマークは高福祉国家として、伝統的に左派の強い議会が特徴でした。
ですが、近年EU諸国と同じように移民増加が社会課題となっています。そのため、「移民の流入を制限する政策」を押し出した右派が勢力を伸ばしているそう。
特に、最右派に位置つけられるDanish Folk Partyの伸びが著しいとのこと。
繰り返しになりますが、デンマークの高福祉国家は高い納税が前提で成り立っています。一般的に保護の対象で、多くの納税が見込めない移民は高福祉国家にとっては脅威。
とはいえ、EU諸国との協定の責任もあり、移民政策をどうするかが現在の大きな議論になっています。
首相は、国民からの直接投票で選ばれます。
現在は、中道右派に位置つけられるVenste党のラース・ロッケ・ラスムセン氏が務めています。
デンマークの国会議事堂見学しました
授業でデンマーク社会民主党のDan Jørgensen氏訪問と国会議事堂見学をしてきました!
デンマークの国会議事堂は、コペンハーゲン中心部のChristianborg(クリスチャンボー)城にあります。この中には、内閣府、最高裁判所も。
ちなみにこちらのクリスチャンボー城は、デンマーク王室の迎賓館としても使用されており、中を見学できます。
こちらデンマークの歴史を表したタペストリー。大迫力。
国会議事堂エリアの待機室にはデンマークの歴史を説明するプラカード。
こちらは国会議員の方の写真。(光っているのは政党ごと。光が入れ替わります。)
女性、若そうな方が多いのがとても印象的。
デンマークの女性議員の割合は40%ほどだそう。(日本は10%ほど)
中は歴史を感じる造りです。
そしてこちらが、デンマーク社会民主党の会議室。
デンマークはどこに行ってもアートやインテリアにこだわっているところが素敵です。
この会議室で、Dan Jørgensen氏に話しを伺いました。
本人の写真を撮れなかった(痛恨のミス!!)のですが、こちらの記事写真で写っている男性です。
Jørgensen氏は、デンマーク社会民主党の政治の目的を語ってくださいました。
同政党の目指すものそれは「国民を一人でも多く幸せにすること」。
シンプルかつ力強い言葉。日本の政治家でこれを言い切れる人はどれくらいいるんだろうか。
またそのためには、「教育、医療、老後等への不安」は極力排除しなければならず、「国民と政府、国民と政治の一体感、信頼関係が不可欠」とも。
デンマークでは、4月に大きな選挙があるそうで次の選挙の争点についても言及。
次の選挙の大きな争点は、やはり「移民政策」が一番に挙がりました。
移民を一人受け入れるのに、多額の税金をかけている。
その後、労働市場に入って納税することで還元してもらわないといけないが、現在はそのように機能しないケースが目立ってきているとのこと。
「社会民主党としては、移民は制限していく。それが国民の社会福祉を守る道。」
それ以外にも、医療分野での税金の使い方の見直し。
「持続可能性(Sustainability)」も挙がりました。
デンマークは2030年までに再生可能エネルギーをゼロにすることも目標にしています。
幸運にもデンマーク滞在中に選挙があるので、その様子を体感できるのが楽しみです。
日本の民主主義は…
Dan Jørgensen氏との面談を通して、デンマーク国民と政治の距離の近さをより実感。
デンマークのいいなぁと羨むような教育費、医療費無料といった制度の裏には、デンマークの国民がしっかり政治参加への責任を果たしています。
日本社会に文句は多いが、日本の政治に無関心な私、大反省。
そもそも「現在、日本の議会には何政党?」「どこの党が右派?左派?」「どの争点に対して、どの党がどういう立場か?」とか聞かれても正直答えられない。知識がないし、勉強してない。大大大反省。
2月頭は保育園の当選発表だったようで、今年もtwitterで「#日本死ね」投稿が散見されました。
それに対して、「保育園落ちた、政治が悪いというあなた。選挙いってんの?」というブログポストを見つけ、本当におっしゃる通り!なんです。
2013年の参院選では、投票率の一番低い順に
1 20〜24歳男性 30.23%
2 20〜24歳女性 32.19%
3 25〜29歳男性 34.39%
4 25〜29歳女性 36.54%
特に若い世代の投票率が壊滅的。
デンマーク人の先生に「日本の投票率は5割程度。若者はもっと低い」って言ったらドン引きされました。
日本でも1860年代から1880年代にかけて、西洋の人権、自由、平等という概念が導入されてきました。1889年に公布された大日本帝国憲法もとても西洋風の憲法でした。ただ日本は、民主主義を自ら勝ち取ったわけではないので、いまだに民主主義が根付いていません。(日本再興戦略、落合陽一)
デンマーク来るまで、日本は民主主義国家だと思っていたよ…
一方で、これまでの人生でどのタイミングで、知見を深めればよかったのかわからない。選挙の時、みんなどうしてるの?独学?
選挙で投票したいと回答した14歳の子の割合が、デンマークは調査国の中で最高でした!
— 駐日デンマーク大使館 (@DanishEmbTokyo) 2017年1月25日
デンマークは民主主義が十分機能するよう、教育では小さい頃から自分の意見を周囲の人たちに伝える能力を重視し、社会や政治に参加する意識を育んでいます。 pic.twitter.com/loTwE4chn2
なんでもかんでもデンマーク最高!とは言いたくないのですが、この分野は本当に見習うべきことが多い。
文句言う前に、まずはできることから…始めてみようかな。